ネット通販の急拡大による負担増と人手不足が重なり、ヤマトが100時間のサービス残業したケースがあったというニュースを目にした。
物流パンク、間に合わずドライバーは10万円自腹で配送、ヤマトは100時間サービス残業 | ビジネスジャーナル
物流業界の人手不足は以前から取り沙汰されている。ネット通販の拡大で需要は増加の一途なのに、人手が足りないというのだ。これは、以前放送されたNHKクローズアップ現代でも取り上げられた。 *1
労働者の過重労働で成り立っている日本の物流
ネット通販業界では、熾烈な競争が繰り広げられている。地域限定ながらも、注文当日に配送されるというサービスもある。そこまでいかなくても、即日発送の最短翌日配送は当たり前となりつつある。それができない中小の通販サイトは、価格コムや楽天のショップレビューで、「配送が遅すぎます」「○○だったら即日発送してくれるのに」などといった辛烈な評価を受けることになる。
土曜日午後に注文した100円の商品が、日曜日に午前に届く。不在であっても、電話一本で夜間にも再配達してくれる。ごく当たり前のようだが、こんなサービスが日常的に提供されている国は、日本以外では聞いたことがない。私がいる国では、金曜日の午後に注文した商品が届くのは、早くても翌週の火曜日だ。土日は、通販サイトの倉庫で働く人も、輸送するドライバーも休むからである。
即日発送も、きめ細かい配送時間帯指定も、利用者からすれば極めて便利だ。外国人に話すと、「便利だね」「日本はすごいね」と驚かれる。しかし、それらの質の高いサービスは、従業員の過重労働の末に成り立っている。今回のニュースは、それをまざまざと私たちに見せつけたのではないだろうか。
サビ残をなくすため、顧客サービスを低下させたり値上げしたりすることは完全に正しい
記事中では、現状を打破しようと、宅配会社が模索している様子が書かれていたが、一朝一夕で解決する問題ではない。
ならば、労働者の権利と健康を守るため、それが可能になる水準まで、顧客サービスを低下させたり、値上げしたりするのはありではないか。例えば、翌日配送や休日配送を止める、時間帯指定で不在時の再配達は別料金をとるなどだ。サービスの向上は、労働者にしわ寄せが行かない範囲で、技術革新に合わせて進めていけばよい。*2
物流に携わる労働者が、サービス残業がないのはもちろんのこと、ワークライフバランスを取りながら、きめ細かい宅配サービスが実現しているのであれば、私は日本の物流の効率の良さや、そういう仕組みを作った人たちを手放しに賞賛する。しかし、現実はそうではない。
Amazonの全商品送料無料の実質終了から見えること
一昨年(2013年)、佐川がAmazonとの取引を止めたというニュースがあった。
佐川急便、アマゾンの負担転嫁に耐えられず取引停止…ヤマト一極集中への懸念 | ビジネスジャーナル
同年、Amazonの全品送料無料が実質終了した。「あわせ買いプログラム」という名の下で、安価な小物類は、他のものと合わせて2,500円以上でなければ注文自体を受け付けなくなった。*3 また、重めの箱入りボトル飲料に関しては、有料会員を除き、特殊取扱商品として追加料金がかかるようになった。
コンビニやスーパーで買えるような商品まで、ネットで注文する人が増えて、割が合わなくなったのだろう。
私は、これでいいと思っている。利益を出すのに1,000円かかるサービスを、300円で提供し続ければ、いずれはどこかで立ち行かなくなるのは、火を見るより明らかだ。そのしわ寄せは、末端の労働者にやってくる。
ドライバーのような職業では、過労は重大事故に直結する。「赤信号で横断歩道に突っ込んだ原因は、長時間労働を強いられたドライバーの居眠り運転によるものだった」というニュースが来ないことを祈るばかりだ。
日本の奴隷型顧客満足至上主義がブラック企業を生む一因
消費者は、より安い価格でより高いサービスを求め、企業はそれに応じる。応じなければ、ライバル企業に取って代わられてしまう。そこでカットされるのは、人件費である。これこそが、企業がブラック化していく最大の要因ではないか。
私は、日本の労働環境の酷さは、この異常なまでの奴隷的顧客至上主義に一因があると思っている。
「ブラック企業を何とかしろ」「ワークライフバランスが大切だ」と叫びながら、「オレは500円しか払わないが、2,000円分の働きをしろ」という要求をしているのは、ものすごく矛盾している。
以前、ある通販会社の担当者のTwitterで、以下のようなツイートが炎上した。
詐欺??ただで商品が届くと思うんじゃねぇよ。お前ん家まで汗水たらしてヤマトの宅配会社の人がわざわざ運んでくれてんだよ。お前みたいな感謝のない奴は二度と注文しなくていいわ。 “@xxxxxx 1050円なくせに送料手数料入れたら1750円とかまじ詐欺やろ。"
一社員としての言い方は適切ではないが、これは完全に正しい。それを知った上で、今の私たち消費者にできるせめてものことは、配達員に「ご苦労様、いつもありがとう」とねぎらいの言葉をかけることだと思う。
- 作者: 今野晴貴,坂倉昇平
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