日本で生まれ育った人は気付きにくいが、日本は、サービスの質が非常に良く、それゆえ利便性も極めて高い。世界一と言っても過言ではない。私はもちろん、日本を訪れた外国人の多くが認めている。
日本と比べると海外のサービスはひどい
そんな質の高い日本のサービスや利便性と比較すれば、海外のそれは、先進国であっても見劣りしてしまう。電車は時間通りに来ない、宅配便の時間指定もない、店員の接客が悪い、納期も守れないなど、程度の差こそあれ海外では当たり前だ。
海外生活に慣れたあとに、数百円の買い物でも深々とお辞儀され、笑顔で「ありがとうございました」と言われたり、1分の電車の遅れでお詫びが入ったりする日本に戻ると、こちらの方が恐縮してしまう。
もし、日本のサービスの質が、5分間だけ海外並になったとしたら、クレームの嵐でインターネットや電話が繋がりにくくなるかもしれない。(笑)
日本に来た外国人は、「日本のサービスの質は、なぜこれほど高いのだろう?」と疑問に思う。海外に行った日本人は、「海外のサービスの質は、なぜこれほどに低いのだろう?」と疑問に思う。
日常生活のサービスの質や利便性の高さは、何のためにあるのだろうか?
答えは簡単。それは、私たち人間がより豊かな生活を営むためだ。では、質問を変えてみよう。高いサービスの質や利便性は、私たちが豊かな生活を送るために必要不可欠なのだろうか?
答えは「ノー」だ。確かに、電車が時間通りに来ればそれにこしたことはない、店員が終始笑顔でかつ親切丁寧に接客してくれれば気分が良い、きちんと納期が守られるのは立派なことだ。しかし、それらは「理想的な要素」であって「必要不可欠な要素」ではないと私は思っている。
もちろん、最低限の要素が必要であるのは理解している。数分の遅れなら許容できても1時間の遅れは困る、店員のため口は気にならないけど暴言は論外、数日の納期遅れならOKだが1ヵ月は遅れすぎといった具合だ。
しかし、今の日本では「最低限の要素=理想的な要素」となっているのではないだろうか?電車が数分遅れただけで駅員に詰め寄る人、店員が敬語を使わなかったり、笑顔がなかっただけで接客態度が悪いと言う人、そんな人が少なくない現状を見ていると、そう思わずにはいられない。
サービスの質や利便性の高さは価格に比例するもの
質の高いサービスや利便性を実現するためには、それなりのコストがかかる。従業員の教育費用であったり、遅れを取り戻すための残業手当や休出手当であったり、システム構築費用であったりする。それらのコストは誰が払うのだろうか?海外では、一般的に価格に転嫁されて、サービスを受ける側が負担する。従って、質の高いサービスを受けたければ、サービスを受ける側も相応の対価を払わなければならない。
もし、価格に転嫁できないとなると、どうなるだろうか?そのしわ寄せは、そこで働いている労働者に来る。その結果が、サービス残業であり、低い有給取得率であり、過労死であるのではないだろうか。
客が、高品質で利便性の高いサービスを求めれば求めるほど、サービスを提供する側はそれに応えるため、自分たちの身を犠牲にしているのだ。だから、消費者と直接接する接客業にはブラック企業が多い。
支払った価格に見合わないほど高いサービスを求めるということは、自分が働く立場になった時には、支払われた価格に見合わないほど高いサービスを提供しなければならない。そのために、サービス残業が慢性化したり、有給が捨てられたりするのだ。海外の人々はそれらを良く心得ていて、「価格相応」「足るを知る」ということを知っている。だから、客は支払った価格以上のサービスを求めない。質の高いサービスを求めるなら、それを売り物にしている高級店に行けばいいだけだから。
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「豊かな生活のために豊かな生活を犠牲にしようキャンペーン」絶叫実施中(笑)
質の高いサービスや利便性は、私たちの生活を豊かにするためなのは前述したとおりだ。ところが、豊かな生活を得るために日本人がしていることが、結果として、豊かな生活をむしばんでいるのである。何とも皮肉なことではないだろうか。
私は、豊かな生活は、豊かな生活を犠牲にしない範囲で少しずつ求めていけばよいと思っている。豊かな生活は、技術の発達による生産性の向上やイノベーションで、徐々に実現していくことだ。
私たちは、今一度ライフスタイルを見直すべきではないか。日本は物質的には十分過ぎるほど豊かな国だ。今度は、心も豊かな国にしていこう。そうすれば、客や上司から言われなくても、自然と笑顔になるものだ。
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