三波春夫の「お客様は神様です」という言葉がある。この言葉は、いつしか本来の意味から離れて使われるようになった。日本では「俺はお客様だぞ」と言わんばかりに、「カネを払っている方が偉い」という考え方がまかり通っている。
海外では考えられない日本流の過剰接客
海外では、日本と違い、客と店員の関係は対等である。したがって、接客態度も日本と異なる。店で買い物をしたとき、日本流接客のように笑顔で "Thank you" と言ってくれる店員もいれば、終始ブスッとしている店員もいる。最初は違和感を感じたが、やがてこれが普通ではないかと思うようになった。店員も人間なのだから、性格も各々で異なるし、不愉快なことがあればそれも表情に出よう。それに、店員の仕事は、キャッシャーであれば、客から代金を収受して、商品を渡すことなのだ。愛想よく振る舞うことではない。そもそも客の方も、日本流の過剰接客なんて求めていない。
お客様は神様ではなく人間です
ところが、「客>店員」な日本ではそうではない。日本では、接客態度が少しでも気に入らないと、「客に向かってその態度は何だ」とクレームをつける人が少なくない。そのため、店側も接客マニュアル作成や従業員教育などにコストをかけざるを得ない。日本(東京)の物価は世界一高いのは事実だが、それらも価格をつり上げている一因だということを推して知るべきだろう。レシートの行間を読めば、
- 笑顔接客料:10%
- 敬語使用料:10%
- 大きな声の挨拶料:10%
- お辞儀料:∠3°につき1%
- 客を神様として扱う手数料の小計:40%
と見えてくるかも知れない。
海外でも、高級な店に行けば、それに見合った接客が受けられる。そういった場所でも、客と店員の関係は対等なので、客も高級店に相応しい紳士淑女として振る舞うことが求められる。日本流に「高いカネを払ってるのだから」と傲慢に振る舞えば、周りからひんしゅくを買うことは必至であろう。客は、神様ではなく、私たちと同じ人間なのだから。
店員に「ありがとう」と言うのは海外では当たり前
Q&Aサイト「ヤフー知恵袋」に「店員に『ありがとう』と言うのはおかしい」 という質問がいくつか投稿されていて、中には1000件以上の回答が付いていた。こういう質問が投稿されること自体、日本では「客>店員」という図式が成り立っているということを痛感させられる。そんなことを議論をしているのは、「お客様」がガラパゴス化している日本ぐらいのものだ。海外では、スーパー、 ファーストフード店、バス車内、高速道路の料金所、その他あらゆる場所で何かしてもらったら “Thank you” と言うのは当たり前である。店で買い物をするとき、
- 客:Thanks. (英国では ‘cheers’ もよく使われる)
- 店員:Thank you. Have a nice day.
- 客:Thanks. You too.
といったやりとりが交わされるのは日常茶飯事だ。日本ではスーパーやコンビニなどで買い物したとき終始無言も珍しくないが、海外では怪訝に思われる。
雇用主と労働者の立場も対等
「お客様は神様」だと言わんばかりに傲慢に振る舞う客を見ていると、何かを連想しないだろうか?そう、社畜である。社畜が「給料払っているんだらしっかり働け」と、理不尽なサビ残を強要して社員をこき使う姿は、「俺はお客様だぞ」と言って、理不尽なクレームをつけて、傲慢に振る舞う客と紙一重の差もない。社畜は、自分が客として店で買い物しているときは、店員の些細な不手際にさえ執拗にクレームをつけたり、怒鳴りつけたりするが、自分の会社で働いているときは、上司や取引先にはペコペコと作り笑顔でへつらっているのだ。何ともこっけいである。
大切なことは相手を尊重(リスペクト)すること
先ほどのQ&Aサイトの質問の回答の中に
人は1人では生きていけない。家族であれ、友達であれ、部下であれ、店員であれ、人に何かをしてもらったときに、感謝の言葉を述べるのは、人として当然ではないか。
といった回答を見かけたが、これこそが "Spot on!" グローバルスタンダードな考え方であろう。大切なことは、自分や相手の地位にかかわらず、相手をリスペクトすることだ。
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