従業員にサービス残業をさせたり、有給を捨てさせたりしないと会社が回らないという。サービス残業は労働力の窃盗という立派な犯罪だし、有給は労働者に認められた権利である。不法行為をしないと立ち行かない企業なんて欠陥企業だ。欠陥を修復できないなら、潰れてしまえ。
労働犯罪が「必要悪」とされている日本
ブラック企業(という名の労働犯罪企業)への批判は根強い。それに対して、次のような反論がある。
過当競争の中で、多くの企業は生き残りをかけ、コストダウンをしなければならない。そのためにギリギリの人員で回している。従業員に残業手当を全額支給したり、有休消化を認めたりすると、会社が回らなくなる。会社が倒産したら、従業員は全員解雇される。失業してしまえば元も子もない。
この論理によって、多くの労働者は、サービス残業(という名の労働力窃盗)や有給を捨てることを余儀なくされている。労働犯罪が、日本社会の歯車であるかのような考え方だ。それを証明するかのように、労働基準監督署も積極的に動こうとはしない。報奨金まで出して、不法就労を徹底的に取り締まる入管とは天と地ほどの差である。
残業代を払えば回らないなら、価格を残業代を考慮したもににすればよい
残業手当を払ったり、有給を認めたりすると、会社が立ち行かなくなるというのは現実にあるだろう。事実、「山の日」を祝日にする法案が出てきたとき、経済界から休日が増える事への懸念も出た。*1
ったく、世界一低い有給消化率*2のくせに、どの口が言ってるのだか。
こういう懸念が出ること自体、日本では従業員が、サービス残業をしたり、有給を捨てたりすることを前提に会社が回っているように見える。そもそも、人件費というものは、従業員に法定残業代を払い、労働者の当然の権利である有給が完全消化されるものと仮定して算出すべきではないか。店であれば、それらを考慮して、それで利益を上げられる価格設定にすればよい。
残業代を払わなかったり、有給を認めなかったりすることを前提にしているのならば、それは言語道断という他はない。買掛金を踏み倒したり、万引きして会社の備品を調達したりすることが経営の前提条件としているのと同じレベルである。断じて許されることではない。
もはやチキンレース—従業員のためにブレーキをかけたら負け
企業によっては「従業員の残業代をまかなうために価格を上げれば、従業員にサービス残業を強いることでコストダウンしているライバル企業に負けてしまう」ということもあるだろう。特に飲食業であれば、賃料や原材料費を下げることが難しいため、コストダウンのしわ寄せは、サービス残業や有給消化できないという形になって従業員に来る。しかし、法律を守った方が不利になるということはあってはならないことだ。
従業員を守るために、残業代を払ったり、有休消化を認めたりして、過当競争にブレーキをかけた方が負けなんて、チキンレースそのものである。そんなバカなことがあってたまるか。TVゲームでチート(改造による不正)を認めている、受験でカンニングを認めているようなものだ。
労働犯罪は必要悪ではない。絶対悪である。法律を守ったら会社が持たないだって?そんな企業は潰れてしまえ。
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労基Gメンよ、立ち上がれ
正直者が馬鹿を見るようなことはあってはならない。これを解決するには、国が動くことだ。労働基準監督署は、重い腰を上げ、労働犯罪を徹底的に摘発していくべきであろう。
不法就労の外国人労働者を尾行したり張り込みしたりして、一網打尽で摘発する入管Gメンがいるように、労基Gメンを大量に投入する。見せしめ的に摘発するのではなく、「サービス残業は犯罪行為である。労働犯罪をすれば摘発され、重いペナルティが科せられる。だから労働犯罪は割が合わない」ということをブラック企業共に身をもって知らしめてやるのだ。
短期的に見れば、痛みは伴う。商品や受注の安さだけが取り柄のブラック企業は廃業に追い込まれよう。その結果、失業者が増えるかもしれない。しかし、長期的に見れば、メリットの方が大きい。法定残業代が支払われるようになれば、人件費が増すが、労働者の収入も増す。有給が今より消化されるようになれば、従業員の休みに備えて、労働力に余裕を持たせる必要がある。労働力に余裕を持たせようとすれば、人員を増やす必要がある。3人で回していた部署を4人にするといった具合だ。
ブラック企業に倍返しだ!
海外の先進国では、高い生活水準を維持しながら、定時退社・有給完全消化・有給病欠ありというワークライフバランスの取れた生活を当たり前に送れている。日本にできないはずはない。
日本がフツーの国になるには、国が動かなければならない。国を動かすには、国民が声を大にしなければならない。
ブラック企業に対する世間の関心は高まっている。今こそ欠陥ブラック企業に10倍返しする時だ。いつやるかって? 今でしょ!
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