聖域5品目をめぐって、TPPの交渉が暗礁に乗り上げた。世論調査では、TPPへの関税引き下げに応じるべきが65.5%、応じるべきではないが26.2%とダブルスコアを付けている*1にも関わらずである。日本はかたくなに聖域固持する姿勢を崩していない。
TPP合意、先送りへ 日米関税協議まとまらず (2014/02/25 朝日新聞)
TPPって一体何?
外国からモノを輸入する時、関税という税金がかかる。関税は、外国から安い輸入品が入ってくることで、国内産業が打撃を受けることを守ることが目的である。
TPPの内容は幅広いが、そのうち、大きく取り上げられているのが関税の撤廃と混合診療の解禁である。これに反対しているのが農家と医師会だ。日本の農業や国民皆保険制度が崩壊する、というのが彼らの反対の理由だ。
TPPに反対しているのはJAと農家
農家がTPPに反対するのは「安い外国米が入ってきて、消費者は国産米を買わなくなり、米農家は打撃を受ける」からだという。だが、消費者が国産米を買わなくなるというのは誤りだ。消費者は、国産米か輸入米かを価格・品質・ブランドから選べるようになる。価格を重視する人ならば輸入米を選ぶだろうし、品質やブランドを重視する人ならば、高くても国産米を選ぶだろう。特に味にうるさい人が多い日本人は、安い輸入米よりも、これまで通り国産米を選ぶ人が多いのではないだろうか。
スーパーでは国産牛と外国産牛肉の両方が店頭に並んでいる。家電量販店では、ソニーやパナソニックなどの日本メーカーの製品の横には、サムスンやLG電子の製品が並んでいる。米となれば反対するというのには、既得権益が見え隠れする。
欧米の広大な大地に見た農業
欧米で長距離列車の乗ったことがある人なら気付くだろうが、都会を離れると、車窓には地平線の彼方まで延々と牧草地帯や耕作地が広がっている。大規模農業が行われているのだ。
日本はどうだろうか?列車で都会から田舎へと出ると、田園風景こそ広がっているが、家や集落がぽつぽつと見える。それらは農家である。欧米の鉄道と違い、駅がこまめにあることも、そこに人が住んでいることの証明だ。日本で農業を営む事業者は、極めて小規模な農家が多いことが見て取れる。
集積化・合理化されて低コストで生産された海外の安い米が、日本に入ってくるようになれば、日本の農業に少なからず危機をもたらすことは間違いないだろう。小規模な農家には、欧米のように最新鋭の耕作機を導入して、合理化を図るなんてことはできない。
ならば、日本の農家は、法人化して、大規模化・合理化による生産性向上やコストダウンを推し進め、外国米に負けないような品質と価格を提供すればよいではないか。それをせずに反対だけしている姿は、自由競争を嫌がっているだけにしか見えない。
地方の組織票をあてにする自民党
なぜ、自民党は農家の肩を持って、TPPの聖域5品目を固持するのだろうか?得票目当てなのは言うまでもないが、ここにも日本特有の年功型の縦社会が垣間見える。
日本では、能力よりも年功が物を言う。特に保守的な官僚機構や政界であればなおさらだ。政治家にとっての年功とは、すなわち当選回数である。
地方には、強固な組織票がある。地方の有権者の多くは、農家であれば農協の推す人、医師であれば医師会の推す人といったように、彼らの業界団体の推薦する候補に投票する。さらに、地方に住んでいる年配の人ほど、保守的な傾向があり、「民主主義の本質」を理解していない人が少なくない。彼らは、「選挙と言えば自民党」というように深く考えずに投票する。これは、当選回数の多い議員の大半が、地盤が地方であることがわかる。
逆に都会では、第三次産業が主体であり、幅広い年齢層の人が居住する。無党派層と呼ばれる特定の支持政党を持たない人も少なくない。そのため、組織票の力は弱くなり、浮動票の割合が非常に高くなる。だから、当選回数を重ねることが難しくなる。
議員数で言えば、都会選出の議員の方が、地方選出の議員数よりも多い。だが、国会内で力を持っているのは、当選回数が多い地方選出の先輩議員となる。従って、都会よりも地方の有権者の声が重視される。その結果、資本主義的な自由競争よりも、地方の農家の既得権の保護、経済効果が大きい都会のインフラ整備より、地方に使われない道路やハコモノを作ることが優先される。
自民党に改革はできない
多くの有権者の声よりも、地方の有権者の声を優先して、TPP聖域を固持し、公共事業に多額の予算をつぎ込もうとする自民党を見ていると、かつての自民党と何ら変わりがない。そんな自民党に、日本の労働環境を抜本的に改善するための、労働ビッグバンができるのだろうか?できないよね。
労働ビッグバンとは、安倍晋三内閣において提唱された、労働市場改革の総称である。
(中略)
竹中平蔵は、著書の中で「既得権益を失う労働組合や、保険や年金の負担増を嫌う財界の反対で頓挫した」と述べている。
労働ビッグバン (Wikipedia)
- 作者: ジェフリー・J・ショット,バーバラ・コトチュウォー,ジュリア・ミュール,浦田秀次郎,前野高章,三浦秀之
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
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