「人が貧しくなる」ということは、昨今のテレビや新聞からも想像できる。今回のエントリーでは、「国が貧しくなる」ということについて書いてみた。
「貧しくなる」とは—まず家計で考えてみよう
私たち個人の生活では、お金が入ってくる収入と、お金が出ていく支出とがある。国も同じである。国の収入のことを歳入、支出のことを歳出という。
「今月は赤字だなぁ」ということになれば、生活を切り詰めていくしかない。お金の使い方に優先順位を付けて、低い順からカットしていくのである。週1回の外食を月1回にする、飲みに行く回数を減らす、3万円費やすつもりだったものを1万円のものにするといった具合だ。
給与カットやボーナスカットともなれば、切り詰めはさらに激しくなる。ましてや失業ともなれば、マイホームの売却して賃貸に移ることもありうるだろう。
では、国が貧しくなると、一体どういったことが起こるのだろうか?家計と同じように、お金の使い方に優先順位が付けられ、低い順からカットされるのである。
国が貧しくなると起こるかも知れないこと
あらかじめ断っておくが、これから挙げることが必ず将来の日本で起こるというわけではない。
①生活に直結しない公立図書館・美術館などの公共施設は閉鎖される
図書館・美術館が、本・美術品を購入するのにもお金がかかる。警備費や職員の人件費もかかる。図書館はなくても生きられる。お金がないから。
②病気になっても、軽症なら自費診療にされる
軽い怪我、病気や虫歯には健康保険の適用がなくなる。医者にかかりたければ自費診療でということになる。健康保険が適用される病気でも、患者負担率が3割から上がるかもしれない。最悪、国民皆保険制度がなくなるかもしれない。
③災害や老朽化でインフラが破壊されても放置される
豪雨、地震や津波などの自然災害、あるいは老朽化でインフラが寸断されても、修繕されるまで長い時間がかかるようになる。人口が少ない地域では、そのまま放置されるようになる。
④親族の扶養義務が強化され、生活保護や公的介護は門前払いされる
扶養・介護できる親族がいる限り、生活保護や公的介護は受けられなくなる。関係が悪化していたり、疎遠になっていたりしても、「親族と信頼関係を築けない本人の責任」「法律で決まっているので」と一蹴される。その結果、介護疲れによる殺人事件が多発するかもしれない。親族に迷惑をかけたくないと考えた人が、餓死したり孤独死したりするケースが増えるかもしれない。
憲法に「家族の助け合い」を入れるべきか?自民党改憲草案に河野太郎議員が反論
自民党改憲案 第24条 家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。家族は、互いに助け合わなければならない。
世界人権宣言 第16条3項 家族は、社会の自然かつ基礎的な単位であり、社会及び国による保護を受ける権利を有する。
⑤警察官・消防隊員も減らされる
交番は閉鎖される。救急車・消防車の数も減らされる。事件・事故が発生して、緊急通報しても、駆けつけてくるのは1時間待ちになるかもしれない。警察官の数が少なくなると、殺人・強盗などの凶悪犯罪の捜査を優先するため、詐欺・窃盗といった軽い犯罪は見逃されがちになる。割れ窓理論によると、軽い犯罪の放置は、犯罪の凶悪化を招く。治安の悪化に直結する。
⑥治安が悪化し、ゲート付きセキュア住宅街ができる
富裕層は、セキュリティーの強固なマンションや、塀で囲まれた住宅地で暮らすようになる。入り口には警察官か武装ガードマンがいる。また、郵便局や銀行などの大金を扱う店のカウンターは、防弾ガラスで区切られるようになる。
振り込め詐欺に変わって、ビジネスパーソンをターゲットにした短時間誘拐が多発するようになるかもしれない。
⑦赤字のローカル鉄道・バスは廃止される
三セクの赤字ローカル鉄道やバスは廃止される。クルマを運転できない人は、移転を余儀なくされる。商業施設や公共施設を中心部に集約したコンパクトシティが増えてくる。
⑧公立学校は統廃合され、教科書は貸与制、授業はビデオになる
児童生徒の少ない学校は次々統廃合される。40人1学級に1人の担任を付けようにも、教師を雇う予算がない。授業はビデオになり、試験や課題の採点は、アウトソーシングされるかもしれない。
⑨科学技術への投資額が少なくなり、ノーベル賞が取れなくなる
自然科学分野におけるノーベル賞受賞歴がある国を見てみると、圧倒的に先進国に集中している。研究分野に多額の投資をできる上、教育レベルそのものが高いからである。しかし、財政難になれば、研究予算はどんどん削られる。時代遅れの研究設備で、ノーベル賞クラスの成果を得ることはできない。日本の研究環境の酷さに幻滅した優秀な研究者は、海外に逃げるだろう。
日本の将来=北海道夕張市?
9例ほど挙げてみたが、これだけに留まらない。日本の将来を垣間見たければ、財政破綻した北海道夕張市に行ってみるとよい。
英誌「エコノミスト」では、6年前の記事で指摘している。
Into the unknown | The Economist (未知へ | エコノミスト)
貧しくても、明るく楽しく生きられれば、それに越したことはない。かつてのような経済大国になれなくても、衣食住と精神的な豊かさだけ維持したいものだ。
- 作者: 財団法人日本再建イニシアティブ
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