「ドラえもん」に出てくる「のび太」といえば、基本的には典型的なダメ人間だ。自助努力せず、すぐにドラえもんに泣きつく姿に、不快に思う人も少なくないだろう。今回は、ドラえもんで印象に残っているエピソードがあるので紹介しよう。これらは、今の社会に通じるものがある。
「今」を映すドラえもんのエピソード
①ぼくよりダメなやつがきた (オススメ)
人間誰しもが持つ心の弱さを如実に表現したドラえもん屈指の名エピソードだと思う。以下のリンク先で、原作(コミック)の一部を画像付きで紹介されている。アニメ版はYoutubeを検索すれば見つかるだろう。(のび太のダメさ・のび太の反省と成長・秘密道具・現代社会を生きる私達への教訓を10分に凝縮している) ぜひ見てほしいと思う。
ドラえもん『ぼくよりダメなやつがきた』 | スコシフシギな世界-藤子・F・不二雄ブログ (コミック版から一部抜粋しながら紹介)
のび太のクラスに転校生がやってくる。ところが、その子はのび太より勉強ができず、運動神経も悪い。のび太は大喜びで、一緒に勉強をしては「こんな簡単な問題を間違えて」、かけっこをしては「ボクの方が速いでしょ」と勝ち誇ったように言う。見かねたドラえもんは、「配役いれかえビデオ」という秘密道具を出し、のび太をスネ夫に、転校生をのび太に入れ替えて、のび太が転校生に対して取った行動を録画したビデオを再生する。自分がしていることの酷さに衝撃を受けたのび太は…。
②出木杉グッスリ作戦
のび太・スネ夫とジャイアンの3人が結託して、勉強もスポーツも万能で女子にモテる優等生の出木杉に嫉妬し、宿題を忘れさせようと奮闘する。
③どくさいスイッチ
野球でヘマをして負けたのび太は、ジャイアンにしごかれそうになる。特訓を嫌がり、「ジャイアンさえいなければ」と言い出すのび太に、ドラえもんは「どくさいスイッチ」という自分に批判的な人間をボタン1つで消せる秘密道具を出す。最後はのび太1人になってしまう。
※安倍晋三首相のFBに批判的なコメントをするとブロックされるらしい。クリック1つで、実名の人の言論を封殺する様は、「どくさいスイッチ」を使うのび太を彷彿とさせる。*1*2
これらのエピソードを見て、のび太の身勝手な振る舞いに不快感を覚えた人も少なくないだろう。
大人になるってこういうこと
ドラえもんの主要登場人物3人の特徴をまとめると以下の通りだ。
- のび太…勉強も運動もダメ。怠け者でお調子者。
- スネ夫…マザコンのお金持ち。自慢するだけしては、のび太を仲間はずれにする。
- ジャイアン…ガキ大将。同級生の漫画やおもちゃを取り上げる、誰も聴きたくない自分のコンサートのチケットを押し売りする。
マンガにありがちなステレオタイプとはいえ、現実にいれば、好かれるタイプではない。常に他力本願の者や、力や富を振りかざすことでしか己を満たせない者を、友人として遇する人は少ないであろう。
作中において彼らは小学生であるが、大人になった彼らが登場するエピソードもいくつか存在する。その1つが『のび太の結婚前夜』である。副題の通り、のび太の結婚前夜を描いたものだ。
この中でも、のび太のドジっぷり、ジャイアンの音痴っぶりは健在である。しかし、ジャイアンが歌い出して「やめろー!下手くそ」と冗談交じりに言われて、暴力を振るうかつてのジャイアンの姿はそこにはない。
小学生時代からのび太を知っているであろうしずかの父は、「あの青年は人の幸せを願い、人の不幸を悲しむことができる。それが人間にとって一番大切なことなんだよ」と言うシーンがある。これは、のび太が、体だけでなく、精神的にも大人になったということを暗示している。のび太だけでなく、ジャイアンやスネ夫もそうだろう。
「大人になる」って、こういうことなのではないだろうか。—人の立場に立って物事を考えられるようになること—人の痛みがわかるようになること。
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想像力が欠如した大人たち
しかし、現実には、先の3つのエピソードにおけるのび太のような大人が少なくない。
例えば、ネットの掲示板では
- 異性との性行為の経験がある者は、ない者を「童貞のくせに」と蔑む。
- 偏差値の高い大学を出た者は、低い大学を出た者を「Fランのくせに」と貶める。
- 単純に大学を出た者は、高卒以下の者を「低学歴が」と見下す。
他にも、アスペ・在日・ブサヨ・ナマポ・DQN・情弱・ヲタク・○○厨などの言葉で、人を侮蔑したり、非難したりする。
何もネットの中だけに限ったことではない。実社会では、ヘイトスピーチをしたり、マナーを咎められて逆ギレしたり、店員に高圧的な態度で接したり*3、職場でパワハラ*4やマタハラ*5をしたりする人が少なくない。
社会的成功を収めている者や、自分より幸せそうな者を、嫉み、足を引っ張る。逆に、自分より下と見なした者に対しては、嘲笑し、軽蔑し、虐げる。そして、自分に都合の悪いことは、耳を塞ぎ、拒絶する。
これらの根底にあるものは、「自分が相手の立場だったら…」という想像力の欠如ではないか。もちろん、心の奥底でそういう感情を抱いてしまうのは、人間である以上仕方ないことなのかもしれない。しかし、それを表に出して実際の行動に移してしまうのは、良識ある大人の取る行動ではない。
人の振り見て我が振り直せ
自分が劣等感を抱くなら、その悔しさをバネに、自身を高める方向に向ければよいではないか。自分より優れているものは素直に賞賛し、下手の者には手を差し伸べる度量が欲しいものだ。他人に八つ当たりしたところで、自分自身の境遇が変わるわけではないのだから。
「人の振り見て我が振り直せ」ということわざがあるが、今回取り上げたエピソードからは、故・藤子・F・不二雄が「のび太の振り見て我が振り直せ」と、私を含む現代人に語りかけているかのようだ。
※注意されて「そういうお前だって…」と相手のあら探しを始めた時点で、自分自身から目を背けていることに気付くべきだろう。
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