客が所有する紙の本を電子化する「自炊代行」が著作権法に違反すると認め、代行業者に差し止めを認めた判決があった。
以前から「ほぼ違法」と言われていただけに、特段の驚きはない。私は、法解釈は別にして、実につまらない裁判だと思う。
自炊代行にニーズがあるのは電子書籍が便利だから
海外に住んでいると、このような電子化サービスは、非常に重宝する。大きな街には日系書店があるが、取り扱い冊数が限られている上、価格も日本の書店の倍以上する。Amazonやhontoのように海外発送してくれる通販サイトもあるが、送料が非常に高い。そういうことを考慮すると、電子化サービスは非常に便利である。
ところが、自炊した電子書籍は、使い勝手がよくない。まず、ファイルサイズが大きい。スキャンした本は、文字データではなく画像データの集まりとしてPDF化されるので、ファイルサイズは必然的に巨大になる。Kindleのように、外部メモリカードが使えない端末だと、端末に入れられる冊数も限りがある。また、端末側のモニター解像度が低い場合、拡大しないと字が読みにくい。拡大すると一画面に収まらなくなるため、縦横スクロールが必須だ。さらに、全文検索も使えないし、目次から本文へのリンクもない。
小説のように、最初から読み進めていく本なら何とか使えるが、参考書や辞書のように特定のページを開くことが多い本であれば、使い勝手は非常に悪い。
自炊代行業者から金を徴収するなら、さっさと電子書籍化すべき
出版社と自炊代行業者の間で独自ルールを制定する動きも*1もある。このようなルール作りを目指すということは、出版社側も電子化のニーズを認めているのだろう。電子化が著作権侵害の温床であれば、いくら金を積まれようが絶対に認めないだろうから。
それならば、なぜ、出版社自らが、Kindleなり楽天Koboなりの電子書籍化に踏み切らない?それらには、DRM(デジタル著作権管理システム)が実装されており、自炊されたファイルに比べたら、ネット上に無秩序に出回る恐れは格段に低い。それに、中古本と違い、売れればその分だけ出版社の収益になる。
出版社は、書籍の電子化を、売れ行きや評価の高い本から順次進めていくべきであろう。
しかし、日本では電子書籍は今一つ復旧していないし、その兆しも見えない*2。出版社が書籍の電子化に消極的なのは、街の本屋を守るためなのだろうか?それとも、再販制度という悪しき慣習を守るためなのだろうか?だが、いつまでも既得権にしがみつこうとする日本の慣習が、イノベーションを妨げているということを知るべきであろう。
電子書籍は非常に便利
海外にいる日本人、特に留学生は、その大半が電子辞書を持っている。それは、便利であるからに他ならない。だが、電子辞書に入っているコンテンツは、メーカーが選んだコンテンツだけだ。もし、数多くの書籍が、その形態に応じて適切に電子化されれば、一体どれだけ便利になるだろう。
写真が多い本ならば、Googleの画像検索のように写真だけを一覧表示させるができる。旅行ガイドなら、現在地や地図から該当のページへジャンプさせられる。細かい条件指定ができる全文検索機能が搭載されれば、辞書や参考書の類は、はるかに使いやすくなる。パソコンと連携して、コピー&ペーストで引用ができれば、論文作成の効率ははるかに上がるだろう。
これが教育の現場に行き届けば、十年一日の日本の教育も大きく変わる可能性だってある。
電子書籍が普及するためには、端末が広く行き渡る必要があるし、そのためにはコンテンツ数の充実は欠かせない。コンテンツ数の充実には、出版社が旧態依然な体質を改め、紙の書籍重視から電子書籍重視への大きく舵を切る必要がある。
出版社が電子書籍化を進めれば、わざわざ無駄な裁判を起こさなくても、紙の書籍を電子化するサービスは淘汰されていくだろう。
私は、電子書籍に新時代の息吹を感じる。ところが、それを阻害しているのが、既得権に固執する出版業界であるとすれば、残念でならない。
時代に合った利用者の利にかなった行動を
最後に、アップル社の元CEOである故・スティーブ・ジョブズがiTunes Store発表に際に言ったことを引用しよう。
われわれは違法ダウンロードと戦う。訴えるつもりも、無視するつもりもない。競争するつもりだ。
- 作者: 山田 順
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