今夜(2017年7月14日午後9時)、日テレ系で米林宏昌監督の『思い出のマーニー』(スタジオジブリ)が放映される。
「この世には、目には見えない魔法の輪がある。輪には内側と外側があって、私は外側の人間……」──このような主人公・杏奈の独白で始まる。
学校でクラスに溶け込めず、喘息を患った主人公の杏奈が親戚の家へ療養に行くところから物語は幕を開ける。七夕まつりの願いごとの短冊に「毎日普通に過ごせますように」と書きながら、彼女に近づいてくる人を拒絶し、自己嫌悪に陥る。そんな中、マーニーという不思議な少女と出会い、打ち解けていくというストーリーだ。
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日本には、杏奈のような人は非常にたくさんいるのではないだろうか。彼女ほどではなくても、他人との関係を築くことが苦労している人は少なくないはず。頻繁に耳にするようになった「リア充」「ぼっち」「おひとりさま」といった言葉がそれを証明している。ジブリがこの作品を今の時代に世に送り出したのも、そういう時代背景があったからこそだろう。
私も「輪の外側の人間」だった
実を言うと、かくいう私も「輪の外側の人間」であった。もし、私が中学生の時にこの作品が放映されていれば、「この杏奈みたいな子、うちのクラスにもいたよね」と言われるであろうレベルだ。実際、遠方故にめったに行かない島根県の田舎に帰省した時、同年代の地元の子供がいたら避けがちだったぐらい。不登校ではなかったものの、典型的な「コミュ障」だった。とは言っても、昔からそうだった訳ではなく、中学に入ってしばらく経ってからのことだ。
「はい、二人組つくってー」と言われたら、確実に余るタイプであった。その後、心許せる人と出会ったことで、周りからも分かるほど幾分持ち直した。(年間の欠席日数は7日前後から0日にまで激減) 「人を変えるのは、人しかいないんだなぁ」と実感。
物心が付いてくるにつれ、個人主義という自分のパーソナリティーと、空気を読むことを重んじる集団主義の日本社会との間に、無意識のうちのギャップを感じるようになり、それが私を「輪の外側」へと追いやっていたのかもしれない。
「日本ってなんか変な国だなぁ」「変わっているのは僕のほう? それとも日本の方?」と感じるようになり、地図帳や地理の副読本を見ては、「将来は海外に出たいなぁ」と見知らぬ土地への思いをはせていたのも、ちょうどその時だ。
そして、思い切って海外に飛び出した
元々、海外志向が強かったこと、そして、好奇心旺盛で新しいことに挑戦することが好きだったこともあり、初めて海外に出るまで時間はかからなかった。(周りからは当然、驚かれたけど……) そのため、初めて取ったパスポートは、紺色の5年間有効のものである。(20歳未満は10年間有効のパスポートが取れない)
個人主義で海外志向が強いといっても、海外に出た途端にパーソナリティーが変わるわけではないので、当初は、「Don’t be shy!」(恥ずかしがらずにさ)などと言われたことは数知れない。しかし、海外の自由闊達な環境に身を置くことで、
- 「日本ほど神経質に空気を読まなくてもいいんだ」
- 「自分らしく振る舞えばいいんだ」
と思えるようになり、物の見方や行動も少しずつ変わっていった。
例えるなら、「はい、二人組つくってー」と言われて、「あれ!? こんなに相手いるじゃん」という感じである。
私は、海外に出たことで、十数年ぶりに「輪の内側の人間」になれた気がする。その時になって、日本にいた頃のあの息苦しさって一体何だったのだろうと思った。
それでも、外国人から見れば、まだまだシャイな方だ。また、日本に行くと相変わらず「輪の外側の人間」のように感じてしまう。それはもう、私のパーソナリティーだと思っている。実際、ネット上の性格診断を試してみると、「うわぁ、生きにくいわけだ」という結果が出てきた。
海外にも「目には見えない魔法の輪はある」
もちろん海外にも「内側と外側を隔てる輪」はある。日本と違うのは、輪を囲う壁の高さである。日本は非常に高く、かつ、登りにくい。乗り越えるには、「コミュ力」(忖度力・同調力・空気読み力)という名の高度なクライミング能力が必須だ。他方、海外(主に欧米の多民族国家)は低いので、ほんのちょっとばかりの勇気さえあれば、簡単に壁を乗り越えて、内側の人間になれる。逆に、内側の人間であることに疲れたら、一旦外に出ればよい。また、ずっと外側の人間として生きていくのもありだ。日本のような「みんな仲良し」への同調圧力はない。
殻を破って、環境を変えよう
もし、あなたが「自分の人生を生きていない」と感じるなら、思い切って環境を変えてみることを提案したい。
自分の意志で自分を変えることは非常に難しい。それは、巷にあふれる自己啓発書の多さからも明らかだ。しかし、自分を変えることはできなくても、自分を取り巻く環境なら変えることができる。そして、環境が自分を変えてくれる。
だから、「自分の人生を生きたい」と願うあなたに必要なことは、環境を変えてみることだ。そして、そのための第一歩を踏み出す勇気を持つことだ。環境を変えてみて、「やっぱり違うな」と感じるなら、再び環境を変えてみればよい。(もちろん自分の行動を振り返って反省すべき点は反省して)
成功するかもしれない。失敗するかもしれない。しかし、何もせず、ただ指をくわえて見ているただけの人とは、長い視野で見た場合、必ず違いが現れてくる。あなたが高齢者になったとき、「あぁ、ワシもあの時、思い切って踏み出していればよかったのう」と思う時が来るかもしれない。
ここでの「環境を変える」とは必ずしも海外脱出ばかりを意味しない。実家を出るのも環境を変えることだし、転職するのも環境を変えることである。地方から上京するのも、逆に地方に移住するのも環境を変えることだ。環境を変えるとはそういうことである。私の場合は、たまたま「環境を変える=海外脱出」だったに過ぎない。
*
ところで、冒頭で取り上げた『思い出のマーニー』が劇場公開されたとき、米林監督は次のように述べている。
さびしい、ひとりぼっちだと感じて、コチコチの殻に閉じこもってしまうと、ますます悲惨な考えに陥ってしまう。でも、きっとあなたのことを愛してくれる人がいる、誰かに愛されている、あなたも誰かを愛することができるということを感じてもらえたらいいなと思いながらこの作品を作りました。
私も同意する。
あなたの居場所はきっとある。だからこそ、思い切って殻を破り、環境を変えてみよう。そして、自分の人生を生きようではないか。
くれぐれも「ネット村の瘴気」に毒されないように。私は、ネットの馴れ合いが大嫌いだったので、ネット上のコミュニティーに沈没することはなかった。
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▼こちらは原著の英語版。(末尾に単語辞書を付けて読みやすくしたもの)
思い出のマーニー When Marnie Was There (KODANSHA ENGLISH LIBRARY)
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